若きピアニストが憧れる世界最高峰の舞台、ショパン国際ピアノ・コンクール。去る10月に行われた第19回では、前回の第４位入賞に続く10年越しの再挑戦で、アメリカのエリック・ルーが頂点に輝いた。
　音楽には人が表れるとよく言うが彼の演奏はまさにそうで、強さと優しさ、聡明さ、そして内省と自信を行き来する葛藤が映し出されるような、ドラマティックでどこか影のある魅力にあふれている。
　２つの公演のためにルーが選んだのは、もちろんコンクールで披露したレパートリーの数々。ノクターン 第7番やポロネーズ 第5番、そしてファイナルで協奏曲と併せて新たに演奏することになった課題の「幻想ポロネーズ」など、彼の持ち味やショパンへの愛着を存分に確かめられる作品ばかりだ。
　それぞれの公演に分けて演奏されるピアノソナタ第２番「葬送」（12月16日）と第３番（12月15日）は、彼が「ショパンの絶対的な最高傑作であり、探究の旅に決して飽きることがない」と話す特別なレパートリー。これらを、優勝から１ヶ月半ののちに東京でいち早く開催されるリサイタルで披露してくれる。
　前回のショパンコンクール時は17歳。再挑戦への理由を尋ねられ、「自分の大人としての人生経験はこの10年につまっている。だから自分の新しい一面を世界の聴衆に示したかった」と話す。ここからまた一段上のステージで新しい音楽人生のスタートを切るルーの始まりのリサイタル、ぜひ聴いておきたい。

高坂はる香（音楽ライター）